エンタープライズ・リソース・マネジメント(ERP)の現状と将来
The present condition and future
of Enterprise Resource Planning
Copy Right Ken Ishiyama
1.はじめに
ERPとは、「企業の事業運営における購買、生産、販売、会計、人事など、顧客に価値を提供する価値連鎖を構成するビジネス・プロセスを部門や組織をまたがって横断的に把握して、価値連鎖全体での経営資源の活用を最適化する計画、管理のための経営概念」をいう。ERPシステムとは、「ERPの概念を企業の経営に具現化するための情報基盤である。具体的には企業の事業運営のバックボーンとなる基幹業務のための新しい情報システムである。」そして、ERPパッケージとは、「ERPの概念を具現化する新しい情報システムを迅速に構築することを可能とするツールである」とされている。1)
ERPという言葉が登場した背景は、SAP社をリーダーとするソフトウェア・プロダクトが先行し、後に1991年ごろからガートナー・グループ(Gartner Group)やAMR社(Advanced Manufacturing Research Inc.)といった情報処理関連のリサーチ会社がそれらのカテゴリーを「ERPパッケージ」と称したことから、パッケージ・ベンダーが、主としてマーケティング上の理由から「ERPパッケージ」の名称を用いるようになった。2)
ERPは企業の基幹業務向けの情報システム・パッケージで、受注、部品購買、生産、製造、配送、販売、会計という企業における一連の業務の流れを扱う全社的な情報システムの業務パッケージである。「サプライチェーン(supply chain)」と呼ばれる調達・生産・物流・販売という基幹業務の流れと、会計業務との統合がERPパッケージで特記すべき特徴となっている。特に、業務と会計機能(財務会計、管理会計)との連携が大きな特長となっている。ERPには製品によって、人事機能なども備えているものもある。
各業務で使うデータベースは業務全般にわたる個別伝票の情報を保持し、すべての顧客との取引を記録、会計的記録だけでなく定性的な情報を含む、商取引の唯一の記録、絶対に嘘を書くことはできないというように、ちょうど江戸時代の「大福帳」のような構造になっている。大福帳の伝統を引き継ぐシステムは、ビジネスの原点の情報、生データのみを記録、盆、暮の決済が可能な取引量という形で作られる。
そして、ERPでは会計情報を期間別・部門別・製品別などさまざまな切り口で解析し、その中味を個々の伝票にまで辿っていける「ドリルダウン」という経営解析機能を備えている。
2.ERPの対象業種
現状のERPパッケージは、部品表展開をルーツとするMRPUをコアとしているため、多くは卸売業、小売業などの業務への対応は不十分で、製造業内の業種への展開、SCM上の業種への展開、ニッチ市場への特化など、主として製造業向けであるが、徐々に販売業務まわりが強化され、全業種で利用できるようになる傾向にある。
ERPの対象業種
業 種
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具体例
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製造業内への業種への展開
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・製造戦略(マスカスタマゼイションにシフトした受注生産、見込生産)への対応、分岐点概念の導入
・製造アプローチ(設備を類似性によって配置したジョブショップ、プロセス順に配置したフローショップ)への対応
・製造環境(機械や家電などの個別生産、化学や食品などのプロセス生産、両者の混合型のハイブリッド生産)への対応
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SCM上の業種への展開
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・卸売業、小売業など下流の業種
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ニッチ市場への特化
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・建設業、航空機産業など
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3.企業規模によるERP導入の難易度順位とそれぞれの管理ニーズ
企業規模によるERP導入の難易度順位については、人とシステムの観点から次のような考え方がある。
ERPを導入しやすい企業規模
有利←――→不利
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中小
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中堅企業
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外資系
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大企業
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2,1.5,0.5,0
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企業
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個人
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公開
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企業
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子会社
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事業部
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全社
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人
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@マネジメントのリーダーシップ
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2
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2
|
2
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2
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1.5
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1
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1
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A教育すべき人員が少ない
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2
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2
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2
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2
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1.5
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1
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1
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B現在の経営管理水準が高い
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0
|
0
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0.5
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1.5
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1.5
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2
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2
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システム
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@ターゲットマーケットとの符号
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0
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1
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2
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2
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1.5
|
2
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1.5
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A情報投資の許容度
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0
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1.5
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2
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1.5
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1.5
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2
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2
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総合評価
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4
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6.5
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8.5
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9
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7.5
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8
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7.5
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(資料:松原恭司郎『ERPの導入』1997)
それぞれの管理ニーズは、BPRの実現、マネジメント・レベルの向上、簡易ベンチマーキング、グローバル化への対応、最新ITの活用などがあげられる。
ERP導入の管理ニーズと内容
管理ニーズ
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内 容
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BPRの実現
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・アジル経営への変換
・販売業務プロセスの統合
・購買業務プロセスの統合
・リアルタイム会計の実現
・計画レベルの業務統合
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マネジメント・レベルの向上
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・マネジメント・レベル
Stratagy、Tactics、Control、Operation
・マネジメント・サイクル
Plan、Do、Check、Action
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簡易ベンチマーキング
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・ベスト・プラクティス
マネジメント・コンセプト、技法、
ビジネス・プロセス
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グローバル化への対応
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・日系企業の海外進出
・国内システム移植の非現実性
・現地ERPパッケージ・ベンダーの存在
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最新ITの活用
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・クライアント/サーバー
・分散SQL/リレーショナルDBMS
・第四世代言語/CASEツール
・GUI
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これをまとめて次のように整理してみる。
外資系企業・・・・・・・・・・・・・・・・グローバル化/グループ化対応
中堅企業(株式公開済みまたは準備中)・・・マネジメント・レベルの向上
特に、資金収支表、減価償却計算、原価計算、在庫管理などの公開基準のサポート
大企業の事業部・事業所・・・・・・・・・・BPRの実践
大企業の子会社・・・・・・・・・・・・・・グローバル化/グループ化対応
大企業(会社)・・・・・・・・・・・・・・BPRの実践
中堅企業(個人的経営)・・・・・・・・・・マネジメント・レベルの向上
中小企業・・・・・・・・・・・・・・・・・マネジメント・レベルの向上
と整理できる。EFについては、むしろ個別業務アプリケーション・パッケージの導入が適している。
しかし一方で、単機能→多機能化→複合機能化(ERPパッケージ)→進化した単機能化という、製品のライフサイクルの観点から、今後は特殊業種向けERPパッケージや中堅・中小企業向けERPパッケージが力を増すと考えられる。価格面から見ても、従来、ハード・ソフト・コンサルテーションを合わせたシステム全体の価格は1億円以上するパッケージが多く、大企業から中堅企業向けであったが、最近は1000万円くらいからのERPパッケージもあり、今後は中小企業へも広がる可能性があるとも考えられる。
4.特徴
パッケージは数多くのコピーを販売するので、1つあたりが安く、買ってきてすぐに使えるという利点がある。さらに、バージョンアップすることにより、新しい機能や情報技術についていくことができる。自らそのソフトを手作りしていたら、高くつき、開発するのに時間がかかって仕方がないことがパッケージ・ソフトウェアを利用するメリットである。
また、全体最適の視点で、部門間の業務を連携・統合でき、パッケージのメリット(低コスト・短期間のシステム構築、バージョンアップ)があり、基幹業務全般にわたるデータを統一的に保持する大福帳型データベースが利用でき、伝票レベルまでのドリルダウン(経営・会計解析)と、経営計画への応用が利き、多国籍サポート(多言語、多通貨、多制度)がある点が特徴である。
さらに、グローバルな情報システム・パッケージとしてのERPには、「ベスト・プラクティス」と呼ばれる多くの企業で培われてきたグローバル標準の業務プロセスが含まれている。ERPパッケージはさまざまな業界における世界中の代表的な企業で採用される過程で、それらの企業が持つ優れた業務プロセスを取り込んで成長してきた。自企業の状況をパラメータ設定することによって動き出すシステムの業務プロセスは、世界の代表的な企業における業務ノウハウが詰まった最適な業務手順(ベスト・プラクティス)だというわけである。
ERPパッケージの理想は、パッケージで標準的に提供される業務機能(ベスト・プラクティス)をそのまま活用して、企業の全基幹業務を統合することである。それにより、短期間・低コストでのシステム構築、業務のリエンジニアリング、将来の容易なバージョンアップなど、ERPパッケージの売りとしている数々のメリットを実現するわけである。
ERP研究推進フォーラムでは、多くのERPパッケージに共通している特徴として、次のようなものをあげている。3)
仕組み(全体像)が明確になっている。
導入・構築手順(導入方法)が準備されている。
基幹業務に対応したモジュールの豊富さと各機能が充実している。
最新の情報技術への対応やオープン性が保証されている。
情報技術面での世界標準が採用されている。
多国籍環境での運用を前提としたグローバル対応が組み込まれている。
事業内容や経営組織での将来の変化に対する柔軟性・拡張性が確保されている。
既存システム/他パッケージとのインターフェース機能が充実している。
統合データベースの採用によりデータ・情報の一元化と共有化がなされている。
保守/メンテナンスなどのサービスが別途提供されている。
導入時の教育/訓練やサポート体制が充実している。
5.短所
ERPはBPRの推進、マネジメント・レベルの向上を通じて、企業の競争力の向上に役立ちうるが、同時に「両刃の剣」でもあり、使い方を誤ると自分を傷つける危険性を持っている。統合であるが故の難しさ、計画重視であるが故の難しさ、グローバルであるが故の難しさ、最新ITを活用しているが故の難しさが存在している。
人に関わる要因として、ユーザ企業の計画・管理レベルがERPパッケージが提案するレベルに達していないこと、BPR推進に対する抵抗、会社の生き残りをかけた販売、生産、物流などの基幹業務システムであるERPの構築を外部に丸投げしてしまうことにより起こる問題がある。システムに関わる要因として、パッケージ機能の未充足・未理解・カスタマイズ増大、最新ITのパッケージ品質・未収熟・統合失敗などの問題がある。
企業の業務処理のやり方や組織構造は各企業で違うし、作っている製品に固有の事情、業界や取引会社に固有の事情が多く存在するのが実状である。ERPは、低コスト・短期間というパッケージのメリットを持ちながら、その利用には多くの解決すべき問題を抱えている場合がある。
企業や企業を取りまく業界に固有な要素は千差万別であり、現実のERPパッケージではそこからくる業務の要求を十分に充足できないのが実状である。また、当然、自社固有の製品や事情に合っている自社の業務プロセスを、標準的な業務プロセスに置きかえれば、自社の強みが活かせない場合も考えられる。ERPパッケージは多くの業務パターンを取り込んでいるため、機能が複雑で全容の理解は困難を極めるといわれている。パラメータ設定による立ち上げはそれを専門とするコンサルタントがいなければむずかしいというのが現実である。
ERPパッケージは基幹業務を対象とする情報システム・パッケージであり、基幹業務の周辺にある専門業務(設計技術、生産技術、物流、販売)システムや、情報の活用を図るイントラネット・グループウェア・データウェアハウスなどの情報系システムとは、連携の関係にある。そうした周辺システムとの境界とも関連しながら、基幹業務のどの部分をERPパッケージで実行し、その中のどの部分を変更・追加開発するか、そして既存のシステムとのつなぎをどうするのか、ERPパッケージを採用した多くの企業はこのERPの理想と現実のハザマに悩んできた。
ERPパッケージを、手作りソフト開発に利用する「パッケージ」として捉えて、自社の業務プロセスに合わせてシステムを修正・開発していくか、それともリエンジニアリングを実現する戦略的なシステムとして位置づけて、全体最適を目指すのか。どちらの場合でも、それぞれに長所と短所があり、一概にどちらが良いという結論は出ていない。このあたりの特性を明確に理解しないでERPパッケージの導入をすすめると、どちらの長所をも失いかねない。
短期間・低コスト・バージョンアップというメリットが気にいってERPパッケージを採用したが、パッケージで実現できない業務機能のカスタマイズ開発に追われ、導入に莫大な時間とコストを費やし、バージョンアップをもむずかしくしたケースや、「ERP」としての導入を目指して業務をシステムに合わせるべくERPパッケージ導入プロジェクトチームががんばったが、現場の反発をくって孤立したケースなどが少なくない。
6.製品・サービス
ERPは欧米から普及しそして日本でも注目されるようになったが、アメリカではパッケージの利用率が6割程度であるのに対し、日本では2割程度と、現状で企業における欧米と日本では情報システム・パッケージの利用に大きな差がある。特に日本企業でのERP導入では、成功事例とともに失敗事例も多くあり、日本企業の企業文化や風土では、ERPパッケージはまだ早いのではないかという意見さえある。日本におけるERPパッケージの導入事例では、成功事例には以下の3つのパターンが多い。
(1)最初は中堅企業(たとえば300人前後の従業員)の場合。そうした企業では、業務プロセスはそれほど複雑ではなく、ERPパッケージが備える業務機能で業務のほとんどをカバーすることができる場合が多く、従来の基幹業務システムもそれほど発達していないのでそこからのしがらみがあまりない。
(2)また、日本企業の海外進出新工場や、外資系企業の日本の事業所に、ERPパッケージを導入する場合。こうしたケースも、業務プロセスや組織・業務分担にしがらみが少なく成功例が多く見られる。
(3)日本の大企業でERPパッケージ導入に取り組んだケースでは、業務の充足度の問題や、今までの現場での業務プロセスや組織構造、既存の情報システムからの「しがらみ」が多く、ERP導入に苦労している事例がある。
より一層の普及を図るためには、日本においては日本的ERPが必要であると考っれる。それは、日本企業の国際競争力を高めるためのブレイク・スルーを支援するもので、欧米のERPの個別技法の採用ではなくコンセプトを取り入れて日本の知恵によって昇華したもので、かつ、日本国内だけでなくグローバルに通用するものである。すなわち、外資系・在外企業を除き、日系・国内企業、日系・在外企業、外資系・国内企業が満足できるパッケージが理想である。
7.マーケット・ニーズ
ERPパッケージを、企業のシステム基盤(Infrastructure)として位置付ける企業が出てきている。その企業にとって付加価値が低い業務については、ERPパッケージを活用して情報システムを導入し、短期間のうちに業務情報(伝票)を一元的に収集する仕組みを確立する。そして、その基盤の上に差別化による競争優位をねらってCSF(Crirical Success
Factor:重要成功要因)にかかわる独自の戦略的なシステムを構築していこうという考え方である。この場合においては、後者に情報システムの効果を企業経営に生かす重点が置かれているといえよう。
(1)製造業
簡単に製造と言うが、製造業の現場は複雑である。多くの企業が性能や品質の異なる多くの製品を作っているわけで、製品によってその管理手順が違ってくる。
製造業の戦略
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・見込み生産方式
・受注生産方式
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製造業の製造アプローチ
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・ジョブショップ生産
・連続生産
・バッチ生産
・継続フロー生産
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製造業の環境
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・ディスクリート生産方式
・プロセス生産方式
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需要予測
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予測種類、予測手法(指数平滑法など)、予測対象、時系列分析、予測誤差など
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生産計画
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生産方式(見込み、受注、連続、ロット、個別など)、日程計画(大日程、中日程、小日程など)、部品表、品目、リードタイムなど
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在庫管理
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仕掛在庫、原料在庫、実在在庫、帳簿在庫、死蔵在庫、滞留在庫、出庫については不良返品、良品返品、実入出庫、みなし入出庫、棚卸しにしても実地棚卸、帳簿棚卸、仕掛棚卸循環棚卸、定期棚卸、評価方法についても原価法、低価法、先入先出法、後入先出法、平均原価法、加重平均法、移動平均法、単純平均法、管理手法としては定期発注法、定量発注法など、その製造業の形態や企業方針で様々な組み合わせ
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資材計画
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所要量計算、技術情報管理としての部品表展開、購買管理として購買計画や検査方式、注文方式、品質管理など
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(2)営業・マーケティング
ERPの基幹業務とは違ったSFA、CTI、SCM、OLAP、データマイニングというカテゴリーの業務システムが、ERPの補完ソフトや機能拡張という方向でERPに関係してきた。特にマーケティング業務はERPの集めた情報のデータウェア・ハウスから様々な情報を取り出して分析するということであれば、ERPがまず前提になる業務システムである。SCMもマーケット情報なしでは有効に機能しない。こうしてERPが企業の統合業務システムとして、企業内部の企業競争力の基本体質を強化する役割から、更に進んで他企業間物流や顧客対応といった企業外部の企業競争力関係要素も取り込み、企業体質をよりいっそう強化するシステム化の基盤となった。
企業の競争力の源泉は企業本来の競争力だけでなく、顧客や関係企業をも包括した効率性と整合性にある。内部の統合から外部の統合へと企業は変化している。エコロジーの考え方もいずれ企業活動の社会的影響コスト、企業廃棄物のコストとしてERPにとりこまれであろう。また、これまでの会計情報を中心に動いていた企業システムから知識ベースの企業システムの要請も見逃せない。いわゆるナレッジ・マネージメント・システムである。営業マンによる顧客情報、コールセンターの顧客情報、EC・EDI情報、関係企業の情報、市場の情報、制度改革情報、世界潮流としてのトレンド情報など、それぞれ別個に管理・分析されるのではなく、統合した管理・分析の必要性と新たな企業の価値創造の源泉としての企業情報管理が考えられている。イメージ情報、音声情報、文字情報など形式の違う統合データ・ベースにもこれからのERPは対応しなければならないであろう。
(3)会計業務
1997年6月に企業会計基準を審議・決定する「企業会計審議会」(これは大蔵大臣諮問機関)が「連結財務諸表制度の見直しに関する意見書」を発表し、2000年3月期決算から企業会計の公表形式は、単独決算中心から連結決算中心に転換することが明確にされた。この結果、連結決算書を作成していた国内企業は連結決算ベースでキャッシュフロー計算書の作成・開示が義務づけられることになった。
連結決算書を作成していない企業も単独決算によるキャッシュフロー計算書の作成・開示が求められる。国内企業でも米国で資金調達や上場している関係の会社はすでに米国会計基準(FAS)で連結キャッシュフロー計算書を作成・開示しているが、上場企業の中だけでも約1400社ほどが連結キャッシュフロー計算書の対応をしなければならなくなった。
キャシュフローの計算には直接法、間接法があり、現在キャッシュフロー計算書として考えられているものは、営業キャッシュフローは間接法で投資キャッシュフローと財務キャッシュフローは直接法である。今後、ERPパッケージは、これまでの日本的な会計処理が国際基準にやっと追いついてくるという過程でまた新たに対応しなければならない。当然新しい分析手法や概念にも対応した業務のあり方を日本的な部分を残したシステムの上に再構築しなければならない。
国際会計基準の対応
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異常損益項目、税効果会計、連結決算、キャッシュフロー計算書、時価主義評価、棚卸資産の低価法採用、退職金給付コスト計算など
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国内制度改革の対応
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税制改革(所得税・地方税・法人税・消費税など)、年金改革、控除項目の改定、特別減税、会計保管帳票のデータ化など
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新しい会計概念の対応
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ABC会計
割引キャッシュフロー分析(DCF法)
加重平均資本コスト(WACC)
修正現在価値(APV)
株式持ち分キャッシュフロー(ECF)
マーケット・アプローチ法(マルティプル法) EBITADA IRR法
ペイバック法
年金のグロスモデル、ネットモデル、分解モデル VBM(Value Based Management)
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(4)独自な戦略的システム
独自な戦略的システムとして、基幹業務周辺で当該企業にとって強みとなる業務システムや、顧客サービスを対象とするフロント・エンド・システムがある。前者は、たとえばPDM(Product Data Management:製品情報管理)システムや物流管理システムであり、後者はCRM(Customer Relationship Management)やSFA(Sales Force Automation)など、ERPシステムによるバック・エンドの業務情報を活用したシステムである。
何10億円という金額と何年という時間を費やしてERPを導入したが、まだその投資効果が十分に現われているとは言いがたい状況にある。各社はERPを基礎に第2フェーズのシステム化を実行中でそれにより、より高度の投資効果を狙っている。ターゲットとなっているアプリの分野は、セールスフォース・オートメーション、カスタマーリレーションシップ・マネージメント、データマイニング、サプライチェーンマネージメント、需要計画、部品管理、製品データ管理、運送管理等の分野である。
ERPは企業の基幹業務を統合化して、部門最適から全体最適の環境を提供する。 SCMは企業の取り引き関係にある企業間のチェーンの最適化を目指した。CTI、SFAは企業と顧客との関係に注目して最適な連携を可能にした。OLAP、データウェアハウス、データマイニングは、企業も顧客も気づかない新しい分析の方法を見つけ出し企業の意思決定の重要な情報を提供する。
欧米を中心にERPパッケージの関連製品市場が急成長し充実してきていることも、ERPシステムの基盤化が進んでいる背景の1つである。マーケット・シェアが高いERPパッケージを導入した企業は、特定の業務や機能向けのパッケージ製品を市場から選んできてERPパッケージと容易に接続することができる。ERPパッケージをシステム基盤として、情報システムの部品化が進展しつつある。
ERPパッケージに組み込まれているグローバル標準業務の採用は、基幹業務そのものの標準化を促進し、基幹業務システムのオープン性を高める可能性を持っている。その1つは、固有の業務手順を持つ企業固有のシステムから、標準業務手順セットの中から選択して利用する標準化システムへの変換である。もう1つは、ERPパッケージと周辺業務システムとの組合せのオープン性である。
基幹業務情報システムの標準化・オープン化の進展は、企業の内部においても、企業間においても、業務自身の内容の透明性を高める効果がある。さらに、部門間や企業間の業務の壁を低くし、部門間・企業間連携を容易にするとともに、人材の早期育成に役立つ。ERPパッケージの採用は、基幹業務システム導入・運用業務の一部をアウトソーシングすることを意味しているとも言えるが、対象企業が同じERPパッケージを使用しる場合は、システムだけではなく業務そのものに関してもアウトソーシングが進めやすくなる。
8.経営環境
市場に商品が溢れ、顧客の要望が多様化し、企業は国境を超えた競争(メガ・コンペティション)にさらされている。企業が取り扱う製品やサービスの種類は増え、サイクルは短くなっている。製品・サービスそのものの品質・コスト・納期とともに、顧客の求める製品やサービスをいち早く見つけて創り出すことが重要になってきた。企業は製品のバリアントや複雑性の増大、製品開発サイクルの短縮への対応に迫られており、アイアコッカ研究所が1991年に提唱したアジリティが重要になっている。アジリティ達成のためには、マス・プロダクションからマス・カスタマゼーションへのパラダイム・シフトが求められる。
このような環境において、情報化投資の期待成果は多岐にわたり、情報システムの投資対効果がとらえにくくなってきている。事実、P.A.Strassmannによる1970年代後半からの継続的な企業情報システムの調査・研究4)では、企業の利益率と情報化投資に相関関係が見られないという調査結果が報告されている。また、「企業情報システムは経営の舵取りに必要な情報や競争力の源泉となるような情報・機能を提供できているのか」という疑問が出てきている。
M.HammerとJ.Champyは、著書『リエンジニアリング革命』5)で「情報技術は、すべてのリエンジニアリングに不可欠な要素」であると述べるともに、「情報技術の役割」という1章を割いて、情報システムの役割の変容について、いくつかの企業事例とともに考察した。企業情報システムは、業務(ビジネス・プロセス)と密接に結びつき、業務生産性・顧客サービス・企業競争力の向上において、新しい業務ルールを生み出す可能性を持っている。企業情報システムの有効活用とは、適切な役割を見つけることだということもできる。
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従来システム
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ERPシステム
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システムの構築範囲
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部門・事業部単位
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全社にわたる基幹業務が基本
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システム構築主体
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情報システム部門
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経営スタッフ部門、ユーザー部門
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業務プロセス
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企業・部門独自の業務ロジックを尊重
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グローバル標準の業務ロジックを適用
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システム構築期間
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通常1年以上
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半年から1年強
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開発・保守とそのコスト
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自前で実施
開発・保守共にコスト大
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アウトソーシングに近い
比較的小さいコスト
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開発手法
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ウォーター・フォール型
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スパイラル型(開発ツール活用)
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開発期間中の要員
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プログラミング段階がピーク
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全体的に平均化される
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情報の共有
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部門内
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全社、リアルタイム
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データベース
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部門・事業部毎に個別に存在
(サマリー型)
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統合データベース
(大福帳型)
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情報技術
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設計時の情報技術水準
クローズ
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バージョンアップ可
オープン
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構築システムのねらい
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業務の効率化
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経営資源の統合的な管理
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パッケージの位置付け
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手作りシステム開発の代替
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企業経営&業務革新
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導入の目的
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システム開発の効率化
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経営戦略・経営管理面を重視
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システムの重点
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経営<業務
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経営>業務
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適用領域
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個別業務単位に導入
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基幹業務全体に導入
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導入の中心となる部署
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情報システム部門、ユーザー部門
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経営スタッフ部門、ユーザー部門
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システムの機能的特徴
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業務機能を重視
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会計データ活用を重視
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情報の共有
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部門内
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全社、リアルタイム
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導入時のカスタマイズ
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無修正 or ソースコードを直接修正
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パラメータ設定、アドイン開発
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導入時の課題
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業務部門の積極的な参画が必要
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経営管理対象を明確にすることが必要
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導入の提案
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ボトムアップ
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トップダウンが基本
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(資料: Copyright Minoru Nakamura, 1999)
9.メーカー・ベンダー
現在、既に外資系企業開発製品、日本企業開発製品、合わせて35製品以上が市場に出まわっている。ERPパッケージ製品には、それぞれ個性があり、得意とする業界、企業規模、機能が異なっている。
日本のERPは現在でこそERPと呼んでいるが、業務パッケージと呼んでいたものとあまり変わりがない。日本のERPは企業の基幹業務の開発がもっと確実にならないかの工夫の中から生まれた。
かって企業基幹業務を構築してきた経験を持つシステム・インテグレータ、ハードウェアベンダーにとって、基幹業務の再構築ほど恐ろしい仕事はなかった。膨大なプログラムの整理から始まるコンバージョン作業、膨大なデータの再構築とコンバージョン作業、さらに新規プログラムの開発とカットオーバーにどれだけの期間、ノウハウ、人員の投入が必要か分からない作業であった。
しかし、陳腐化して行くユーザーシステムの再構築というユーザーの要望には従うしかなく、顧客のための危険な仕事をし続けて来ました。そんな、業界にひとつの可能性を提供したのがERPパッケージであった。日本のERPは、企業基幹業務の安全な再構築のために開発され、海外ERPの参入によってERPというネーミングをするようになったものである。
もともとERPのコンセプトを持っていたわけではなく、たまたまERPが入って来たために便乗したというほうがいいと思われる。もちろん最初からERPを意識したソフトもあったが、ほとんどは次のどれかである。
(1)オフコンで開発されてUNIX、Windows NT(2000)へと移行したもの
(2)最初UNIXで開発されWindows NT(2000)へと移行したもの
(3)最初からWindows NT(2000)で開発されたもの
それぞれが企業の基幹業務をリプレイスするための方法として開発したのが始まりで、海外の企業のように、合併・吸収を繰り返しながら企業基幹業務の再構築という嵐の中で必要とされたソフトではない。BPR、ビジネス・プロセスの再構築という過程の方法論としてのERPの位置づけは、パッケージ開発企業の販売の方便としては都合がよかったのであろう。
しかし今後、本格的なERPが日本で誕生する可能性がある。日本企業のシステム更新サイクルに合わせて成長してきた日本開発のERPは、海外開発ERPのおかげで基幹業務のパッケージ化が可能であることを日本中に認識させた。今後、国内だけでなく海外に向かって飛躍する日本発ERPの可能性が出てきた。
国産のERPパッケージ製品については、当初、欧米でのブームを受けて、営業上の配慮から既存の単機能製品や過去の特定企業向けシステムを組み合わせて急遽取り繕った感が否めないものが含まれていた。しかし、その後は、国産ERPパッケージも中堅企業を中心に多くの導入実績を積み、製品・機能体系の整備が急速に進んでいる。
海外開発のERPで有名なBIG6がある。SAP、BAAN、Oracle、JDE、SSA、Peopleである。10000サイト以上の導入実績のあるERPパッケージ企業をリストアップした。40000サイトの実績を持つものだけでもすでに4社ある。海外のERPパッケージ全体について考えた時、その導入実績は日本では考えられないほど膨大である。
このことは、ソ連の崩壊、東欧の自由化、ユーロ統合、バブル崩壊、金融ビックバンと国家も社会も制度も大変動した中で企業システムも短期間で再構築する必要性に迫られた結果だと考えられる。欧米では、金融ビックバンをいち早く経験し、多くの企業が倒産合併の企業再 編成を経験した。国家の制度も法律も大幅に変った。これまでの企業システムを維持する必要性のないほどの変化があった。多くの企業は基幹業務の再構築を迫られそこに登場したのがERPであった。これまでの企業活動、企業経営を激変させる変化に、ERPは欧米企業にとってまさに必要なソフトウェアであった。
海外のERP導入実績は、ERPという最短の方法を企業が選択しなければならなかった結果であり、国家経済、制度、社会状況が企業基幹業務の大幅な変更を必要とするだけの大変動の結果であった。国家の資源(National Resource)をどう再構築(Planning
)するか、また社会の資源(Social Resource)をどう再構築(Planning)するかの状況では、企業の資源(Enterprise Resource)も再構築(Planning)する必要があったのであろう。ERPは、歴史的必然性の中から生まれたとも考えられる。
日本でもSAP、BAAN,Oracleは比較的有名である。しかし、実績というとSAPは8位、SSAは11位、JDEは12位で、BAAN,Oracle,Peopleはランク落ちしている。ただ、あまり知られていない英国のシステムズ・ユニオンが着実に実績を積上げ2位にいる。また、外資系企業のSSJが6位と頑張っている。ERPパッケージが日本で注目を浴びるようになると海外開発のパッケージだけでなく日本開発のパッケージもERPの名称で注目されるようになった。
1998年3月現在、日本で100社以上の導入実績のある企業を集めてみると日本開発ERPが海外開発ERPよりも実績があることが分かる。(1位のウッドランドの実績はDOS版を含んでおり、またライブラリーという部品構成のシステムであることを考慮すると、モジュール構成のERPとしては、実質上システムズ・ユニオンが1位かもしれない。)
日本では、ビックバンで日本企業が大編成の激変に巻き込まれる事をだれも望んでいない。大量失業、企業倒産、合併吸収の激動を政府も財界も国民も望んでいない。できれば旧態依然とした状況を維持したいと考えている。欧米のERP状況と日本のERP状況の違いはここにある。
10.おわりに
日本ガートナーグループ(本社東京)のデータクエスト部門は、1997年のERPパッケージ(統合業務パッケージ)の市場規模および今後5年間の市場規模についての調査結果を発表した。それによると、1997年の国内のソフトウエアの売上金額は、360億円、ライセンス数は745となった。前年に比べてそれぞれ76%増、64%増と大幅な伸びを示した。6)
この理由についてデータクエストは、(1)市場がまだ発展途上であること(2)景気の冷え込みがビジネスプロセスの効率化につながるシステム需要のプラスにつながったこと(3)2000年問題への対応(4)最新IT技術を用いたシステムの短期構築ニーズ(5)中規模システムユーザーへの浸透などがあると分析している。
データクエストでは年率平均36%で市場が拡大し、2002年には1700億円規模になると予想している。7)
今後も市場規模は伸びていくものと考えられるが、ERPそのものに大きな変化が起きつつある。2000年10月4日付けGartnerレポートでは、欧米において、従来のERPからERPUへのシフトが見られる。
ERPUでは、アーキテクチャはWeb依存型、オープン型、コンポーネント型に移行しつつある。そればかりでなく、役割、ドメイン、機能、プロセス、データにおいても、大きな変化が起こっている。
項目
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ERP
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ERPU
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役割
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企業を活性化する
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バリューチェーンや協調的コマース(c-commerce)に対応
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ドメイン
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製造と物流
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あらゆる部署
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機能
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製造、販売、物流、財務
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企業横断的で、部署と特定企業間も
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プロセス
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内部で秘密に
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外部と接続して
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アーキテクチャ
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Webにも関心あるが、閉鎖的な一枚岩
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Web依存してオープンでコンポーネント型
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データ
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内部で発信、内部で消費される
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内部・外部で公表され購読される
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また、2000年10月27日付けGartnerレポートでは、システム・インテグレータの姿勢は、重点をERPからCRM、SCM、e−Businessにシフトしつつある。これからのERPは、CRM、SCM、e−Businessからなる上部構造を支える下部構造の位置づけになっていくのではないか。
【参考文献・資料】
1)ERP研究推進フォーラム監修『ERP導入マネジメント』アイネス, 1998.
2)松原恭司郎『図解ERPの導入』日刊工業新聞社、1997.
3)ERP研究推進フォーラム http://www.erp.gr.jp/
4)P.A. Strassman:The Business Value of Computer, 1990末広千尋訳『コンピュータの経営価値』日経BP社、1994.
5)Michael Hammer and James Champy:Reengineering the Corporation, 1993,野中郁次郎監訳『リエンジニアリング革命』日本経済新聞社.
6)Gartnerレポート http://www.dataquest.co.jp/
7)『日経デジタル・エンジニアリング1998年5月号』
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